2017年4月1日施行の「建築物省エネ法」に基づいて、規定以上の床面積を有する建築物の建設には「省エネ適判」を受けることが義務化されました。
省エネ適判を受けていなければ、建築基準法の確認済証や検査済証が交付されず、建築・増築などの工事に着工できません。「省エネ適判」を受けるべき対象や手数料、届出方法を理解し、建築物の建設をスムーズに進めましょう。
↑↑詳しくはバナーをクリック
建築物省エネ法について
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」は、2015年の「パリ協定」を受けて制定された、建築物の省エネ性能の向上を図るための法令です。「誘導措置」「規制措置」という、大きく2つの措置を一体的に講じています。
誘導措置(任意):2016年4月1日施行 / 建築物の規模によって、省エネ適判の認定および届出義務が発生する。
規制措置(義務):2017年4月1日施行 / 既存〜改築までのすべての建築物が対象。「省エネ基準適合認定マーク(eマーク)」を受けることで、広告への表示をはじめさまざまなメリットがある。
建築物省エネ法制定の背景には、地球温暖化による自然災害の危惧があります。そのため省エネ等住宅を普及させ、住宅の暖房・冷房などによるエネルギー消費量(民生部門)の削減を目指しているのです。削減目標は、下記のとおり設定されています。
・温室効果ガス:−26%(2013年度比) ・民生部門のエネルギー消費量:−40%
省エネ適判(省エネ適合性判定)とは
省エネ適判(省エネ適合判定)とは、建築物の新築や増改築を行う際に「省エネ基準に適合しているか否か」を判定することです。設計内容をもとに、所管行政庁や省エネ適判機関が判定します。
省エネ適判の対象は、建築物の規模によって異なります。対象となる場合は、工事の着工前に省エネ適判の認定・確認済証の交付が必須です。
また省エネ適判は、以下の基準をもとに判断されます。
建築物エネルギー消費性能基準:建築物省エネ法 第2条第3号に基づく
一次エネルギー消費量基準:冷暖房・空調などの機器類が消費するエネルギー
省エネ適判の対象住宅~増築・倉庫・工場は対象になる?~
省エネ適判の対象は、特定建築行為を行う建築物です。特定建築行為は、一般的に300m2以上の非住宅建築物の新築を指します。ただし2017年4月1日時点で現存する建築物は、条件が異なります。
非住宅に係る増改築部分の床面積の合計が、増改築後の特定建築物(非住宅部分のみ)に係る延べ面積の2分の1以下である場合は、省エネ適判の対象になりません。代わりに、届出が必要となります。
増築の場合
省エネ適判は、建築物の増改築も対象となります。増築又は、改築する部分のうち非住宅部分の床面積が300m2以上のものが該当します。
また特定建築物以外の増築の場合は、増築する部分のうち非住宅部分の床面積が300m2以上、かつ当該建築物が増築後において特定建築物となるものは省エネ適判の対象です。
300m2以上の非住宅の場合
2021年4月以降、面積300m2以上2000m2未満の中規模非住宅建築物を建設する場合は、省エネ適判が必要となりました。2021年3月まで、中規模非住宅建築物は届出義務でしたが、現在は省エネ適判が義務化されています。
倉庫の場合
倉庫の場合は、常温・冷蔵・冷凍などによって省エネ適判の対象となるか否かが異なります。倉庫内の温度や湿度の調節が不要な「常温倉庫」は適用除外。一方「冷凍・冷蔵倉庫」「定温倉庫」は、空気調和設備の設置が想定されるため、省エネ適判を受ける必要があります。
工場の場合
省エネ適合性判定および届出が適用除外となる建築物には、「居室を有しないことにより空気調和設備を設ける必要がない用途に供する建築物」があります。
引用:三重県のWEBサイトより(https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000720194.pdf)
そのため、常温である「無人工場」は省エネ適判の適用除外対象です。一方、空調設備などを有する工場は、省エネ適判を受ける必要があります。
省エネ適判のフロー~変更&軽微変更から完了検査まで~
省エネ適判の一般的なフローは、次のとおりです。
手順 | フロー | 内容 | 必要書類 |
1 | 確認申請 | 新築主が建築主事または指定確認検査機関へ申請を出す | ・建築の申請書 ・添付図書 |
2 | 省エネ性能確保計画の提出 | 建築主が所管行政庁または登録省エネ判定機関へ「省エネ適判」を申請 | ・省エネ計画書 ・添付図書 |
3 | 省エネ適判の交付 | 省エネ基準を満たしていた場合は、適合判定通知書と、計画書・添付図書の副本が交付される | ー |
4 | 省エネ適判の提出 | 建築主が適合判定通知書と、計画書・添付図書の副本または写しを、建築主事または指定確認検査機関へ提出する | ー |
5 | 確認済証の交付 | 建築主事または指定確認検査機関が以下の基準をもとに審査し、満たしたと判断された場合に確認済証を交付する ・省エネ基準適合義務対象か否か ・適合判定通知書が提出されているか ・確認申請書と計画書の整合を審査 | ー |
6 | 着工 | 確認済証が交付されたら、工事に着工できます | ー |
変更&軽微変更があるケース
省エネ適判を受けた後に省エネ計画の変更が生じた場合、建築主は変更後の計画においても改めて適合判定を受ける必要があります。計画変更が必要なケースは次のとおりです。
建築基準法の用途を変更した場合
モデル建築法を用いたものの、モデル建築用途が追加された場合
計算方式の変更(標準入力法・モデル建築法)
ただし、軽微な変更の場合は上記の対応ではなく、完了検査時に「軽微な変更であることを証明する書類」を提出します。軽微な変更内容に沿った対応は、以下のとおりです。
省エネ性能が向上する場合 / 一定の範囲内で省エネ性能が低下する場合:軽微な変更を証明する書類を用意し、完了検査時提出する
再計算による明らかな変更:再計算した内容を所管行政庁または判定機関へ提出。その後「軽微変更該当証明書」を受けて、完了検査時に提出する。
完了検査のフロー
完了検査は、建築完了後に「図面に基づいて建築されたか」を確認するものです。完了検査を受け、検査済証が交付された時点で、建築物を合法的に使用できます。
建築工事が完了したら、原則的に4日以内に完了検査の申請を行う(自然災害などのやむを得ない事情の場合は除く)
申請先は、所管行政庁または指定確認検査機関です。ただし、建築を請け負った工務店・ハウスメーカーが申請を代行するケースが多いです。
完了検査を実施します。実施日は、申請から7日以内です。
完了検査後、検査済証が発行されたら手続き終了です。
建築基準法に基づいた完了検査は、建築主事などによって以下のポイントを確認されます。
軽微な変更を行っている場合は、変更内容が軽微な変更に該当するか
省エネ計画どおりに建設されたか
省エネ適判の必要書類
省エネ適判を受けるためには、以下の書類が必要です。
書類 | 部数(非住宅建築物) | 部数(複合建築物) |
a〜eのいずれか a:計画書 b:変更計画書 c:通知書 d:変更通知書 e:軽微変更該当証明申請書 | 2 | 3 |
図書 | 2 | 3 |
委任状または同意書 | 1 | 1 |
連絡票 | 1 | 1 |
請求書(請求先について) | 1 | 1 |
添付図書は、建築物の規模や用途によって異なります。詳しくは日本建築センターの「必要書類」「提出様式」から確認できます。
省エネ適判の手数料
省エネ適判にかかる手数料は、各自治体により定められています。また、建築物の規模や用途、軽微変更時などによって異なります。下記は、東京都の省エネ適判の手数料の一例です。
非住宅の用途が工場等のみ
規模 | 手数料 | 計画変更時 |
300m2以上1,000m2未満 | 16,700円 | 11,800円 |
1,000m2以上2,000m2未満 | 27,100円 | 19,100円 |
2,000m2以上5,000m2未満 | 80,400円 | 56,400円 |
5,000m2以上10,000m2未満 | 128,000円 | 90,000円 |
10,000m2以上 | 161,000円〜 | 113,000円〜 |
非住宅の用途が工場等以外
規模 | 手数料(モデル建築法 / 計画変更時) | 手数料(標準入力法等 / 計画変更時) |
300m2以上1,000m2未満 | 110,700円 / 77,600円 | 284,440円 / 199,200円 |
1,000m2以上2,000m2未満 | 145,700円 / 102,100円 | 367,100円 / 257,100円 |
2,000m2以上5,000m2未満 | 235,700円 / 165,100円 | 523,700円 / 366,700円 |
5,000m2以上10,000m2未満 | 309,000円 / 216,000円 | 646,000円 / 453,000円 |
10,000m2以上 | 371,000円〜 / 260,000円〜 | 763,000円〜 / 535,000円〜 |
コメント